所有そのものは制限されていません
現行法は、外国人または外国法人であることだけを理由に、通常の住宅・宅地の所有権取得を一律に禁止していません。今回の一連の改正は、届出・報告・登記申請の記載事項に「国籍等」を加える透明化です。手続きを知らずに期限を落とすことが、実務上の実害になります。
根拠は、不動産登記規則の一部を改正する省令(令和八年法務省令第二十三号)です。e-Gov法令検索では、令和8年10月5日施行の条文として掲載されています。
改正後の規則第158条の38は、法務大臣が備える「検索用情報管理ファイル」(自然人である所有権の登記名義人に限る)の記録事項に、第六号として「国籍等」を加えました。定義は「国籍の属する国又は出入国管理及び難民認定法第二条第五号ロに規定する地域」です(国家として承認されていない地域も含む概念です)。
対象となる登記
所有権の保存・移転、合体による登記等(所有権の登記を併せて申請する場合)、所有権の更正(新たに名義人となる者がある場合)。名義人となる者がその登記の申請人であるときに、申請情報の内容として申し出ます(規則第158条の39第1項)。
登記簿には載らない
内閣官房の施策パッケージは、提供された国籍情報を「不動産登記に関する内部情報として保有し、一般公開はしない」と明記しています。第三者が閲覧できる登記事項証明書の記載事項ではありません。
申出とあわせて、氏名の振り仮名(日本国籍がない方はローマ字氏名)、出生の年月日、国籍等を証する「市町村長その他の公務員が職務上作成した情報」(ない場合はそれに代わるべき情報)を提供します。ただし国籍等については、それが本人の国籍等であることを登記官が確認できる事項を申請情報に含めたときは、証明情報の提供を要しません(同条第2項)。電子証明書で代替できるのは振り仮名と生年月日を証する情報に限られ、国籍等は含まれません(同条第3項)。
現行規則では、検索用情報の同時申出は「国内に住所を有するとき」に限られていました。10月5日施行の改正後条文からは、この限定が外れています。海外居住の個人が名義人となる申請でも、申出の対象になります。
すでに所有権の登記名義人である個人についても、検索用情報(国籍等を含む)をファイルに記録するよう申し出ることができます(規則第158条の40第1項)。10月5日時点で既に名義人の方に、直ちに申出義務が課される建付けではありません。
登記の検索用情報とは別に、一定の土地取引では、契約の前後に行政へ届け出る制度があります。令和8年4月1日から、これらの届出事項に国籍等(法人の場合は代表者等)が追加されています。
| 制度 | 対象の目安 | 期限 |
|---|---|---|
| 国土利用計画法 事後届出 | 市街化区域2,000㎡以上/その他の都市計画区域5,000㎡以上/都市計画区域外10,000㎡以上(対価を伴う契約) | 契約締結日から2週間以内(権利取得者) |
| 重要土地等調査法 | 特別注視区域内の土地・建物で200㎡以上。注視区域は届出対象外 | 契約締結前(売主・買主の双方)。郵送は契約予定日の前日までに内閣府へ到達 |
| 森林法 所有者届出 | 森林の土地を新たに取得したとき(売買・相続・贈与・合併等。個人・法人を問わず) | 所有者となった日から90日以内(市町村長)。国土利用計画法の届出をしたときは不要 |
| 外為法 非居住者の報告 | 非居住者が本邦の不動産または権利を取得した場合(金額・面積の大小を問わない) | 取得後20日以内(日本銀行経由で財務大臣)。代理人提出可 |
国土利用計画法:令和7年7月1日から、個人の権利取得者は国籍等、法人は設立準拠法国の記載が始まっています。令和8年4月1日施行の省令(国土交通省令第5号)で、法人についてはさらに①代表者の国籍等、②役員の過半数が同一の国籍等である場合の当該国籍等、③議決権の過半数が同一の国籍等である場合の当該国籍等が追加されました。日本法人を含む全ての法人が対象です。適用は契約日ではなく届出日が令和8年4月1日以降かどうかで判断します。
重要土地等調査法:内閣府は令和8年4月1日から届出様式を変更したと案内しています。特別注視区域内の一定面積以上の売買等は、契約前の事前届出が必要です。届出をしないで契約した場合、虚偽の届出をした場合などには、6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が定められています(法第26条)。対象かどうかは内閣府のウェブ地図で確認できます。
森林法:林野庁は、令和8年4月1日以降の届出書に所有者の国籍等の記載を求めています。法人の場合は設立準拠法国に加え、代表者の国籍等、役員・議決権の過半を同一国の者が占める場合はその国名です。国外居住の場合は国内連絡先の別紙提出が必要です。林地台帳への国籍等の記載は、令和9年4月1日施行とされています。
外為法:財務省の令和8年6月リーフレットによれば、取得日が令和8年4月1日以降の場合、非居住者による不動産そのものの取得は目的を問わず報告対象です。居住用目的などで報告不要となる例外は、主に「不動産に関する権利」(賃借権・借地権等)側に残っています。居住目的で借地権付建物を取得する場合、建物部分は報告対象、と例示されています。報告事項には「取引の相手方」「取得の目的」「不動産番号」が追加されています。
混同しやすいので切り分けます。令和8年4月1日から、所有権の登記名義人は、氏名・名称または住所の変更日から2年以内に変更登記を申請する義務があります(不動産登記法第76条の5)。正当な理由なく怠ったときは、5万円以下の過料の対象です(同法第164条第2項)。施行日前の未了分は、令和10年3月31日までに変更登記が必要です。
過料は直ちに科される建付けではありません。登記官が催告し、相当の期間内に申請・申出がされない場合に限ると、法務省は説明しています。負担軽減のため、検索用情報をあらかじめ申し出ると、住基ネットの情報に基づき登記官が職権で変更する「スマート変更登記」も用意されています。
パスポート、国籍記載の住民票など、公務員が職務上作成した資料の要否を司法書士と早めに擦り合わせる。海外在住者は取得に時間がかかります。決済日に余裕を見てください。
大規模な土地(国土利用計画法)、特別注視区域、森林では、代表者・役員・議決権の国籍等が届出事項です。設立準拠法国が日本でも記載が必要です。
4月1日以降は不動産本体の取得が目的を問わず報告対象。仲介業者等の居住者代理人によるオンライン提出が可能です。取得日から逆算してください。
4月以降に転居・改姓した場合は2年以内の変更登記。国籍等の申出は10月5日時点では任意です。将来の相続登記を見据える場合の選択肢として、法務省の検索用情報案内を確認してください。
在留資格・拠点構築と不動産取得を一体で検討される方は、資産管理コンサルティングおよび会社設立・経営管理ビザ(中文指南)のページもご参照ください。
2026年の改正は、外国人の不動産所有を禁じるものではありません。4月に届出・報告の記載事項が広がり、10月5日から登記申請の検索用情報に国籍等が加わります。対象制度・面積・期限がそれぞれ異なるため、「外国人だから特別な許可が要る」と一般化するのではなく、どの法律の、どの届出かを一件ごとに確認することが実務の核心です。
出典・参照(2026年8月31日時点)
・e-Gov法令検索「不動産登記規則」(平成17年法務省令第18号)令和8年10月5日施行時点(令和八年法務省令第二十三号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018/20261005/508M60000010023
・内閣官房「外国人による不動産取得等の実態把握について(施策パッケージ)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/gaikokujinzai/jitsugen/dai2/shiryo1-1.pdf
・法務省「住所等変更登記の義務化について」「検索用情報の申出について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00693.html
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00678.html
・国土交通省「大規模な土地取引の際の届出事項に法人代表者の国籍等を追加」(令和8年2月2日公布、4月1日施行)/土地取引規制制度
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo02_hh_000001_00106.html
・内閣府「重要土地等調査法」届出について(令和8年4月1日様式変更)
https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/todokede.html
・林野庁「森林の土地の所有者届出制度」(令和8年4月1日以降、国籍等を記載)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/todokede/
・財務省「外為法に基づく本邦にある不動産又はこれに関する権利の取得に関する報告書」(令和8年6月リーフレット)
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/real_property/seido_gaiyo.html
※個別の取得・登記は事案ごとに手続が異なります。本稿は一般的な整理であり、法的助言ではありません。最新の運用は必ず官公庁の一次情報でご確認ください。